今月の商売のヒント
【作業の一日延ばしは、仕事の盗人】 2010年9月30日
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単純作業が好きな人は意外と多いようです。純粋にそれが性に合っているという人はさておき、すぐに結果が見えるから達成感を得やすいという理由で単純作業にはまる人も少なくありません。
学生時代にアルバイト先で封筒貼り1000枚を頼まれた男性は、「ゆっくりでいいから」と言われたにもかかわらず、いかに短時間で貼り終えるかを自分に課して効率的な方法を編み出し、30分ほどで作業を終えたときには、山積みの封筒を前 にうっとりするような達成感を味わったそうです。男性の、「あの達成感を商売で も味わえたら」という思いはごもっともでしょう。
しかし、商売は「作業」ではありません。「仕事」です。仕事で効率的な達成感を求め出したら周囲の信頼を失うはめになります。「作業」と「仕事」は全然違うと言われます。細かい話はともかく、利益を生み出す行動が「仕事」で、仕事のための段取りが「作業」です。データの入力は作業。そのデータを分析して売上戦略を立てるのは仕事。頼まれたものを納品するだけなら作業ですが、ついでに次の注文をお客様から引き出す、もしくは引き出す工夫を すれば仕事です。仕事と作業を厳密に区別すれば一日の大半は作業に費やされて います。けれど仕事をしたような錯覚をしてしまうのは、作業をこなした達成感 で満腹になっているからでしょう。そこに気づかない人は明日も明後日も作業を どんどん増やして、仕事の時間はどんどん削られていきます。
明治の文学者・吉田敏は『うずまき』という小説の中で「一日延ばしは時の盗人」という名言を残しています。今日やるべきことを明日、明後日と延ばしていくのは時間を盗むようなもの。同じく、日々作業に明け暮れるのは仕事の時間を盗んでいるのと同じこと。「作業の一日延ばしは仕事の盗人」です。晩酌のビールの旨さを引き立てるのは、作業をこなした達成感より仕事で苦労した疲労感。――そんな名言を残した文学者はまだいません。あなたが身をもって示すチャンスです。